​『職業選択の不自由』
鈴木亮 (映画監督) 小林弘周 (周撮影)

ある朝、目を覚ました時、自分がどの街のどの部屋で眠っていたのか、すぐにはわかりませんでした。

暗い部屋の天井にはシーリングファンが回っています。でも、これだけではまだわかりません。

昨夜寝付いた時の意識まで記憶を遡っていきます。

その日、僕は東京の自分の部屋で目を覚ましたのでした。そのことに気がつくまでわずか数秒のことだったかもしれませんが、その間、自分が世界と切り離されているような混乱を覚え、不安な気持ちになりました。

 

こう言うと、なにか特別な体験をしたように聞こえるかもしれませんが、これは初めてでは無いのです。しかも、一度や二度ではなく、何度も、色々な場所で。…

かつて僕が信仰という言葉にも近い感覚で大切にしていた信条のようなもの。

その『ある物語』の一節にはこうあります。

 

「天職に巡り合った君は、朝を迎えるのが待ち遠しい気持ちで寝付く」

「そして朝起きたら、感謝と喜びを持って一日の仕事に取り掛かるのだ」

 

『ある物語』が単に「物語」であって真実では無いことに気づいた今ですら、寝起きの僕は、すっかり潜在意識に浸透したこの言葉を、呪文のように反芻しているのかもしれません。それは僕が長いこと自分に課してきた習慣だったのです。

そして、その「天職」を未だ手にできていない自分を捕らえて惨めに思っているようなのです。…

広大な街の東側は海に面していて、その一角に、僕の流れ着いた旧市街ジョージ・タウンがあります。

17世紀頃、かの東インド会社はこの地に商館と砦を建てたのが始まりだそうで、チェンナイ湾を出入りするイギリスの商船を相手にインド商人の作った街が、このジョージ・タウンです。

なるほど街のあちこちに植民地時代の面影を残した赤煉瓦の古い建物を見ることができます。バザールという巨大な商店エリアがいくつもあり、いかにも仕事の取材をテストするのにふさわしい感じがします。チェンナイの中でも一番庶民的な雰囲気を持つと言われるこの街にたどり着いたのは、本当にただの偶然からでした。…

今回の滞在予定はちょうど3週間。「滞在費をできるだけ節約しながら30名程度の取材ができたら」などと目論んでいたのは、あまりにも甘かったのです。咳き込みながら、風邪の引きはじめのような、ぼんやりする頭で街をうろつきます。気温と湿度が高い中では温水の中を泳ぐようで、とても取材の申し込みをするわけにはいかなそうでした。忙しそうに仕事をしている人たちを眺めていると、とても取り合ってもらえないように感じられてしまうのです。「このまま取材のひとつもできずに帰ることもあるのだろうか」と、つい情けないことを考えてしまします。…

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